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日本薬科大学からのお知らせ

湿暑の薬用植物園に咲く花々をご紹介します。

2020年は、記念すべき東京オリンピックイヤーとなるはずでしたが、新型コロナの影響による自粛は未だに続いています。また最近では、ゲリラ豪雨による被害に見舞われるなど、まさに「重き馬荷に上荷を打つ」の状況です。


本学も学生は全てオンライン授業であるため、教職員のみのキャンパスはこれまでにない静寂に包まれています。特に新入生となるべき1年生は、入学式が挙行できないままオンライン授業となってしまい、友達作りもできずに早くも前期を終えようとしています。
学生達の弾む声、語らう姿、放課後のサークル活動・・・
そんなありふれた学校生活が失われた広大なキャンパス構内で、時折、野鳥のさえずり、ゴーゴーと乱暴に木々を揺らす風の音、ひょっこり顔を覗かせるヘビ、トカゲ、リス、そして様々な昆虫との出会いや木々の芽吹き、苔類の繁茂などを見るたびに、人間は本来、自然の恩恵の中に生かされているのだと改めて認識する良い契機となりました。


そのような思いを抱きつつ、小雨がパラパラと傘にあたる音を聞きながら、久しぶりに薬用植物園に足を向けてみました。さいたまキャンパスの薬用植物園は、薬剤師教育や一般の方々への健康啓蒙の目的で、日本全国から薬用植物を収集し育種栽培しています。中には皆様の身近にある植物も数多く植栽しています。

ところで、皆様が季節の移ろいを感じるのはどのような時でしょうか?

例えば、スーパーマーケットに陳列された旬の食材?ウインドーにディスプレーされた季節の装い?それとも日々刻々と変化する自然の風景でしょうか?

薬用植物園にある草木も実は、四季折々、時事刻々とその姿形が変化していきます。


どこの薬学系大学でも同じなのですが、薬用植物園に立ち入る際には、許可が必要になります。なぜなら有毒な植物などもありますし、また、一般的な花を楽しむための庭園とは異なり、ある程度、薬用に関する知識(解説)がないと見ていてもつまらなかったり(地味な植物も多いため)、その季節にあった薬用植物に巡り合えないこともあります。東京都内にお住まいの方なら、小平市にある東京都薬用植物園に足を運ばれたことがあるかもしれませんが、ここでは薬学に関係のあった、あるいは大学を退職された先生がボランティアで待機されていて、来園者に説明をしてくれます。

本学の場合も一部の公開講座受講者を対象に園内を解放し、専門の教員が解説にあたります。当室で関係しているイベンでは、年に一度開催される無線山のさくらまつりにおいて、近隣の皆様方に一般開放しています。天候が良ければ、漢方資料館と併せて薬用植物園までガイド付きでご案内をしています。(現在は休止しています)


そこで、今回は、梅雨時の薬用植物園で見頃を迎えている植物を少しだけご紹介します。


まず初めに薬用植物園のゲート脇に大輪の花を咲かせているのはカサブランカです。

前述のさくらまつりで昨年購入し、当室で生花をたっぷり楽しんだ後、薬用植物園の管理者のもとで大事に育てられています。



また、珍しいところですと、ごぼう(牛蒡)が開花しました。

牛蒡の花を見ると、アザミの花によく似ています。ですから牛蒡は、アザミと同じキク科の植物です。牛蒡は、食用から薬用まで健康を維持するのに優れた植物と言えます。若ごぼう(葉ごぼう)は、根から葉まで丸ごと食べることができますし、2年以上の株を干したものは、生薬の牛蒡根(ごぼうこん)と言い、食欲増進、発汗利尿等の作用があります。実や種も薬になります。果実は「悪実(あくじつ)」と言って、民間薬的に風邪、咳、扁桃炎などに服用されたそうです。なお、悪実とは「刺が生えた果実」ができることからこの名がついたと言われています。果実が熟して以降、その中には種子ができ、これを取り出したのが「牛蒡子(ごぼうし)」です。リグナンという抗酸化性のある物質がたくさん含まれていて、漢方薬(消風散:湿疹、皮膚炎、蕁麻疹、汗疹などに適応)では解毒、消炎、排膿の目的で配合されています。

牛蒡(根)は一般に食材としても食物繊維や栄養が豊富に含まれていますので、便通改善には進んで摂取するといいといわれています。ちょっと気をつけなければいけないのは、「身体が冷えるような便秘」です。牛蒡は身体を冷やす作用があり、かえって悪くなる場合があるので冷やさない食材(かぼちゃ、生姜、玉ねぎ)と合わせる工夫も必要です。


花言葉は、「いじめないで」と言い、花の形がトゲに似ているので触れるものを拒んでいるようにも見えてきます。



次にご紹介するのはスイレン(ハス科スイレン属)です。初夏を代表するスイレンですが、よくハスと間違われます。両者の一番簡単な見分け方をご紹介しましょう(園芸種も多いので一概には言えませんが)。花弁が鋭角で開花が昼~日中がスイレン、花弁が丸みを帯びていて水面より高い位置で咲くのがハス(ハス科ハス属)になります。また、スイレンの場合、花が咲いた後は散ることなく閉じた蕾のまま水中に没します。一方、「ハスの花は早朝」と言われるように、花は日の出と共に咲き、お昼には閉じてしまいます。さらに、開花後、数日が過ぎると花弁を散らすのも特徴です。ですからハスを見学する際は、午前中が良いと言われています。観賞用の園芸種で昼も咲きっぱなしのものもあるようですが、本来は午後には花を閉じるのがハスになります。葉っぱで見分けるなら、スイレンはしっとりとして水面に浮かぶのに対して、ハスの葉は水面より高く開き(種類にもよります)、細かい毛に覆われていることからよく水を弾きます。ハスと聞くと食用の「レンコン」を思い出す方も多いと思いますが、「レンコン」は「食用ハス」という品種で、蓮池に植えて池の底を這う根茎を食用とするものです。レンコンは、牛蒡と同じように健康維持のためには優れた食材です。生では、肺を潤し、湿熱(湿気が体内に溜まってしまって熱を持つもの=病気の原因になる)を取ってくれたり、疲労や精力回復などの作用もあるとされます。食べ物以外の話として、ハスやスイレンの花は「蓮華座」とも言われ仏教ではシンボルのような存在でもあります。例えばハスの花を持った聖観音のイメージでしょうか。


このように奥の深いハスやスイレンですが、本学では温室の水棲植物栽培区で見ることができますので、チャンスがあれば是非ご覧いただきたいおすすめの植物です。




本学の薬用植物園は、季節に応じた様々な植物たちと出会えるいわば「秘密の花園」です。地味ですが、はかなげでふっと消えてしまいそうな小さな花々もしっかりと根付き強く逞しく咲いています。私達も日々の暮らしで忘れかけていた自然からの恩恵を、身近にあるそのような花々や小動物から癒しや勇気として与えられているのかも知れません。








いつかは、希望に満ち溢れる日が必ず来ると思いますので、そのような折には是非、本学の薬用植物園に足を運んで下さい。


皆様にお会いできる日を私どもスタッフ一同、心よりお待ちしております。


<インフォメーション:上尾市 原市沼の古代蓮>

原市沼は、上尾市と伊奈町の境に位置する細長い湿地帯の沼です。

行田市の古代蓮の種を譲り受け、地元の「原市沼を愛する会」の皆様が、ボランティアで管理運営をされているそうです。


夏季のみ一般公開される秘密の蓮池で、皆様も神秘的な古代蓮を愛でてみてはいかがでしょうか?