日本薬科大学からのお知らせ
3月11日は、最高気温が19℃まで上がり4月並みの暖かさに包まれましたが、一転3月14日は真冬並みの厳しい寒さに逆戻りし、都心でも雨が霙や雪に変わるなど街行く人々を驚かせました。そんな中、気象庁は午後になり東京・靖国神社にある桜の標本木で、5~6輪以上の花を確認し、開花の発表を行いました。
そこで、誰もが心待ちにしている満開のサクラの前に、大学の構内で感じ取ることができる「春」をお届けしたいと思います。
本学には、東京ドーム2.7個分に及ぶ敷地と森があり、この中で陸上競技部の学生が、箱根駅伝の本選出場を目指して日々練習をしています。ここに敷設されたコースを「ダッシュの杜(もり)」と呼びます。冬の間は木々の葉が落ち寒々しい光景が広がりますが、気温が緩み始めると色彩豊かな花々が咲き始めます。ダッシュの杜のすぐそばには薬用植物園があり、「フクジュソウ」、「オウレン」、「マンサク」などが春の訪れを真っ先に知らせしてくれます。
特に傍目にはサクラやウメとよく似た木から薄ピンク色の花をつけた植物が目に留まります。これはサクラと同じバラ科に属するアンズの花です。杏子(あんず)は、ウメとともに奈良時代に渡来したと言われています。開花後に結実し、これがオレンジ色に熟する6月から7月頃に収穫して食用とします。柔らかくて酸味があるので、好んでジャムに利用されます。もっぱら実ばかりに目が向きますが、実はアンズの種は立派なクスリなのです。身を割って種を取り出し堅い殻を割ると、アーモンドとよく似た種子(仁)が出てきます。これを生薬の「杏仁(きょうにん)」と呼び、咳を鎮める漢方薬として、また咳止めの医薬品の原料としています。また、察しの良い方はデザートの「杏仁豆腐(あんにんどうふ)」を思い浮かべたかと思いますが、あの独特の香りはアンズの種子に由来するものです。
古代中国の「神仙伝」〈杏林〉(きょうりん)の故事によれば、呉の国の薫奉(とうほう)という仁医がいて、貧しい人からは治療代を取らず、症状の軽い者からはアンズを一株、重傷者からはアンズを五株植えさせたといいます。後年、薫奉の家の周りにはアンズの林が出来たそうで、これに因んで「杏林」が医者の尊称になったと言われています。
本学の卒業生も薬剤師、登録販売者、診療情報管理士などとして医療に携わり、多くの患者様と接しています。アンズを植えさせた薫奉のように、いついかなる時も弱者に寄り添い、疾病治療のお手伝いをしているはずです。ひょっとしたら皆さまが利用されている医療機関にもそのような本学の卒業生がいるかもしれません。
どこからともなくハクセキレイの囀りが聞こえ、越冬したシジミチョウが舞い、キャンパス内とは思えない自然の豊かさを改めて感じます。